ドイツ紙・「人災」と対外表明するなら、国策も問え!・再記載

福島の原発に関する裁判がいくつか進行中のようだが、2012にスイスやドイツの新聞に出ていた長い記事を蕗子さんが、非常に正確に丁寧に時間をかけて解説記事にしてくれたのを感謝して、再記載する。

私が長期に休暇に行き、ブログが書けない時、時々彼女に留守をお願いした。当時チューリッヒ工科大学ETHに在学していた彼女は数回このような貴重な記事を書いてくれた。ぜひ読んで!日本の社会構造・メンタリティーは今も同じだからだ。

******************


福島の原発事故をめぐって検証をつづけていた国会の「事故調査委員会」が、昨日5日、最終報告書をまとめて提出した。このニュースは、スイスでもドイツでも、リアルタイムでとりあげられ、そして数時間後にはもう新聞記事にのぼった。とくにドイツ紙は、焦点の当て方が深く、そして厳しかった。

今日は、スイスとドイツの代表的な新聞(スイスからはNeue Zürcher Zeutung、ドイツからはFrankfurter Allgemeine Zeitung)が、この日本の事故調査委員会の「報告書」をどう見たか、それぞれ紹介したい。まずはスイス紙、ノイエ・ツルヒャー新聞から見てみよう。


フクシマ - あれは「人災」だった
(Neue Zürcher Zeitung 2012/07/05)

本日の木曜日、東京では、フクシマの原発事故について調査していた国会の事故調査委員会が、報告書を提出した。(中略)そして結論はこうである、「福島原発の事故は、明らかに人間のせいで起った災害であり、自然災害(津波)のせいにすることはできない」。

そもそも日本には、「本当の権力者にたいしては、責任を問わない」という悪しき伝統と傾向がある。この伝統と傾向にたいする不信感を払拭し、責任者を対外的に明確にする、というのがこの委員会の目的らしい。そういうわけでこの報告書は、日本政府とTEPCO(東電)にたいし、彼らの重大な業務過失を告発した。

委員長は次のように言っている「そもそも(この原発では)業務過失が積み重ねられてきており、そこにさらに、その過失が自覚的に、あえて無視されてきたことで、福島原発の6基は、地震や津波に備えるための対策がとられないまま去年の春まで来てしまった。その結果として、発電所の冷却システムが機能停止し、3基がメルトダウンした。」

10人の委員からなるこの調査委員会は、3.11後に起った原子力事故への対応が適切であったかを調査する目的で、昨年12月、国会の肝いりで設置された。この委員会は、誰を招致して聞き取りするかも、どんな調査書を要請するかも、すべてがまかされた、最高度の権限をもった委員会だった(これはアメリカの「公聴会」スタイルで、この委員会のインタビューで嘘を言えば偽証罪に問われる。政府はこれほどの権限をもつ委員会を組織するため、わざわざ法を替え、これをつくった)。そこでは1167人に対して聞き取りが行われた。もちろんその中には、当時のさまざまな決断に関わった政府関係者や当時の東電社長、Shimizu Masataka以下、東電幹部が含まれる。

ただし、せっかくのこの委員会は(こうした権限をもつ委員会は、大戦後の日本では、まさに初めての試みだったが)調査のために非常に短い時間しか費やさなかったことも事実だ。(記事の翻訳はここまで)



スイスの新聞は、「本当の権力者は、いつも責任をまぬかれる仕組み」の日本の伝統を、批判している。そして、この調査員会は、こうした海外からの批判等にこたえるものとして、対外的に設置されたのだろうと推測している。また、この調査のための時間があまりにも短かったことについても指摘している。

一方、ドイツの新聞は、もっと、ずっと手厳しい。おなじ調査報告書の内容について書かれたドイツのフランクフルター・アルゲマイネ新聞の記事を見てみよう。


フクシマの不幸は「人の手」で作られた
Frankfurter Allgemeine Zeitung 2012/07/05
(注意: 以下の翻訳は、昨日、最初にこの記事が配信された時のテキストを使っています。現在は、そこから少し書き直され、書き加えられています)

日本政府の報告書は、フクシマ事故について、日本の政治と原子力産業との関係の近さがそもそもの原因であることを明らかにした。2011年3月の不幸は、「人の手によって作られた」。なぜならそれは、事前に予測可能であったし、避ける事もできたはずだからだ——国会の肝いりの調査委員会は、今日提出した最終報告書のなかでこう結論づけた。そして日本は、「原子力産業と政府が、原発をまったく監視できていなかった」との最終報告にもかかわらず、まさにこの日、二ヶ月ぶりに再び原子力エネルギーを使い始めた。

たくさんの国民の反対のなか、総理大臣は、大飯原発の3号機と4号機を稼動させた。この大飯の2機は、日本各地にちらばる他の50機と同様、フクシマ事故のあと点検作業のため稼働休止していた。しかし日本政府と企業は、この夏、電力が安定しないことを懸念し、原子力にふたたび頼ることにした。「日本は、原子力なしには、普通の生活水準を保てないのです」と総理大臣は釈明している。

関西電力によれば、近々、大飯原発の3号機はふたたび電力供給が可能になる。この3号機は(報告書の提出をまたずに)先週末に起動した。大飯とその周辺は、フクシマ事故以前は、原発産業にずぶずぶに頼っていた地域だった。その住民にたいし、政府とKEPCO(関西電力)は、「たいへん厳しいストレステストに合格した(から大丈夫だ)」と説明する。こうして政府は、ほかの原発も順次、再稼動したいと考えている。

再稼動反対者たちは野田にたいし、「経済を国民の安全に優先させるのか?」と叫んでいる。調査報告書の結果などどうでもいいのか(事故調査委員会の報告書の結果がでないうちに決定し、また今、結果が厳しいものであったにもかかわらず続行しようとしている)、というわけだ。実際、本日提出された事故調査委員会の報告書にも、「原子力事故にさいしての政府と東電責任者の対応は、国民をだますようなものだった。この事故は、的確なそなえをしているべき政府と東電とが、実際には、秘密裏にこそこそ申し合わせばかりしていた結果だ」という批判がある。

去年12月に国会の肝いりで設置されたこの調査委員会は、約900時間ほどで1167人もの関係者を審問した。さらに調査委員会は、福島第一、福島第二、そして、さらに別の2つの原発の調査もしたという。

その周到な報告書の中で、調査委員会は、国会にたいしては、これから人選される原子力規制委員会・原子力規制庁とこれまでの防災規定を、しっかり監視するよう求めている。そして政府にたいしては、原子力事業者とどのような関係にあるかを法律の中でしっかり明示し情報公開につとめ、原理力事業者と相互に監視し合うようなシステムを作り、そして日本の原子力基本法を「安全・健康・福祉の世界基準」に沿うよう改革することを求めている。(***しかしこの原子力基本法には、「我が国の安全保障のため」「原子力を推進する」という国策の前提が謳われている。そして実際、計10人いた委員のうち専門家としては唯一の女性委員だった崎山比早子氏が、調査委員会では(原子力推進という)前提そのものについては論じず、ほぼ手つかずであったことが残念だ、と述べている・・・。)

振り返ってみれば、「事故をおこした原子力事業者(東電)と日本政府とのやりとりのデタラメさ」や「日本国民1人1人の無知識」等であれば、過去に行われた調査でも、とっくに指摘されていたのだ。(中略)

だから今回の調査報告書は、過去の調査の指摘が正しかったことを、指摘から学ばないことで起きてしまった事故をとおして、そのまま「やっぱり正しかった」と証明したというわけだ。(翻訳はここまで)



ごらんのとおり、非常に厳しい見解だ。

こういう記事の背景を説明すると、ドイツには、戦後、ドイツ国民みずからドイツが引き起こした戦争責任の所在を問い、自ら裁いたという歴史がある。この経験は、ドイツ国民ひとりひとりの心の内側に深く食い込み、決して消えない「何か」を刻んだ。ドイツ人のドイツコンプレックスは、だから非常に大きく、そして根深い。その根深さは、つい6年前ドイツで開催されたサッカーのユーロ2006までは、ドイツ人なら老いも若きも、人前でドイツ国旗を振ることに罪悪感を感じ、ためらっていた程だ。開催国なのに盛り上がりに欠けるという批判をうけ、ようやく、ドイツ国旗を振るようになったほどなのだ。

そんなドイツと、アメリカ主導で戦犯を裁き、アメリカ主導で新しい憲法をつくらなければならなかった日本とは、「責任追及」の意味も歴史も経験も違う。ドイツは、このたびの日本の国会事故調査委員会について、戦犯会議に匹敵するような最高度の執行権限をもったこの審問委員会を日本人自らがつくり、これによって日本人自らが「責任追及」をしようとしていたことに注目し、静観していた。

結果ドイツメディアも、またスイスメディアも、この報告書が(大飯原発の再稼動決断にたいして何の意味ももたなかったことから)何よりも「対外的」に見せる目的をもった委員会であったという見方をした。つまり、対外的に責任者を表明するけれども、原発推進の「国策」という内々の事情には一切触れていない報告書、というわけだ。そして、日本人自らが「責任追及」することで国民1人1人の「心の内側」に食い込むはずの「深い何か」についても、スイスやドイツのメディアは報じることは一切なかった。

大飯再稼動という国内の重大決定に対して何の意味ももたず、原子力推進という国策そのものについても問わず、そして国民1人1人が自らの過去を省みることも促さないなら、この報告書の「独自の意義」は、いったい何だろうか?

そうやってまた、歴史は繰り返されるのか?——ドイツ紙はそう問いたげなのだ・・・

チューリッヒ在住、蕗子

[PR]
by swissnews | 2018-11-03 05:50 | 原発・福島・東電 | Comments(0)

スイスのメディアで見聞きした "JAPAN" をお伝えします


by スイスで聞く「日本」

プロフィールを見る
更新通知を受け取る

All About 掲載中

All About News Dig
Newsdigに掲載された記事
の一覧は、
こちらから

最新の記事

元徴用工らへの賠償・ドイツで..
at 2018-12-15 05:13
沖縄辺野古埋め立て反対署名が..
at 2018-12-14 00:12
アメリカの忖度弁護士に3年の..
at 2018-12-13 03:31
チューリッヒ老人大学講義やダ..
at 2018-12-12 06:06
日産元CEOゴーン氏が再再逮..
at 2018-12-10 19:06
メルケル氏が18年の党首辞任..
at 2018-12-08 03:40
スイステレビニュース・日本の..
at 2018-12-07 22:20
スイスの内閣は7人の大臣から..
at 2018-12-06 00:11
坂本龍一氏の沖縄に寄せる思い..
at 2018-12-04 05:21
裕福で、繁栄し、幸せな国の世..
at 2018-12-03 14:25

記事ランキング

ファン

カテゴリ

執筆者プロフィール
------
政治・経済・歴史
企業・労働・賃金
科学・技術・研究
原発・福島・東電
社会・福祉・医療
教育・宗教・人材
メディア・グローバリゼーション
自然・環境・災害
東北・津波・地震
観光・交通・運輸
女性・ジェンダー
映画・建築・芸術・エンタメ
生活・文化・伝統・笑い話
スポーツ
五輪
Made in Japan
竹島・尖閣・日中韓の問題
------
スイス在住日本人のつぶやき

ブログジャンル

時事・ニュース
海外生活